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第3回 カビによる感染

(参考)皮膚真菌症診断・治療ガイドライン

カビのことを医学用語で真菌(しんきん)とよびます。真菌感染の診療は皮膚科の基本中の基本であるとともに結構奥深いです。

白癬・皮膚カンジダ症・癜風は角層に感染する真菌感染の3兄弟です。それぞれ、白癬菌、カンジダ菌、マラセチア菌により起こります。白癬菌は糸状菌ともいわれます。カンジダは酵母の仲間です。

白癬は足趾の間や陰部が好発ですが、体や頭部にも起こります。皮疹は不定形の紅斑あり、その辺縁が落屑しています。足白癬ではびらんとなることもあります。かゆみも強いです。年季の入った足白癬は爪を侵し、『爪白癬』に進行します。頭に白癬が感染すると、『ケルスス禿瘡(とくそう)』になってしまうことがあります。これは、白癬が毛包に感染し、排膿や脱毛を起こすものです。

皮膚カンジダ症も陰部、腋窩、指の間などが多いです。口内カンジダでは口内に白苔(白っぽいモヤモヤとした苔のようなもの)ができます。皮膚カンジダ症では落屑(カサカサ)や紅斑(赤み)に加えて膿疱(うみ)をつくることがある点ですこし特徴があります。マラセチアは若者の体幹に多く、類円形の褐色調の紅斑や、不完全な白斑(白っぽく色が抜けること)を起こします。攝子(せっし=ピンセット)で表面をこすると多量に落屑します。落屑を伴うことがあります。それから背部などに膿疱を伴う毛包炎を作ったりします。これをマラセチア毛包炎といいます。それから、顔などの脂漏部位に起こりやすい脂漏性皮膚炎も、マラセチアによる影響があるとされています。

これらの皮疹は一見、湿疹と区別がつかないときがあるので、皮膚科の初診では、真菌の顕微鏡検査(KOH法)で真菌の有無を確認します。皮膚科の臨床実習ではぜひ確認してください。

実際のやり方です。白癬では鑷子(せっし=ピンセット)を使って落屑(皮剥け)の切れ端をつかんで剥がします。あるいはメス(切れにくいほうがよい)で落屑を擦って剥がします。皮疹の中央部より辺縁がいいです。爪白癬では、表面をこすっても駄目です。まず、爪切りで爪甲剝離部位や爪の先端部を除去します。できるだけ爪の基部に近いところで、爪の下の白っぽい角質から採取します。カンジダやマラセチアでは紅斑部を攝子やメスの切れないほうでこすると、落屑がでます。落屑をスライドガラスに乗せて、強アルカリのKOH(水酸化カリウム)液を数滴垂らします。その上から、カバーガラスをかけます。スライドガラスの下からライターの炎などですこし炙ります。すると、角層の蛋白は溶けて、菌体が見えやすくなります。

それでは観察しましょう。10✕10程度の低倍率で視野を広めに取り、視野を暗くして、コンデンサーを下げ、コントラストを付けます。少し太くて、ソーセージみたいにくびれがあるやつが白癬(水虫)、くびれがないやつがガンジダです。ぶどうの房のような胞子をみることあります。カンジダは膿疱を作りやすいのが特徴。癜風のマラセチアは菌体が太いです。ただし、マラセチア毛包炎では胞子のみが見えることが多いです。

治療です。今は白癬やカンジダ、マラセチアにもよく効く抗真菌外用(ルリコン軟膏・クリーム・1日1回)があるので安心です。クリームはさらっとしていますが、びらんにクリームを使用すると、刺激により皮膚炎を起こすことがあります。したがって、ワセリンを基材とする軟膏使用するほうが良いかもしれません。口腔カンジダには、ファンギソンシロップやフロリードゲルを使用します。爪白癬になると、ルリコンだけでは効きません。イトリゾールやラミシール、ネイリンなどの内服が必要です。これらの薬には肝機能障害や飲み合わせに注意が必要です。内服でも3ヶ月から6ヶ月の内服が必要です。爪が徐々に生え変わることで治ってゆくので、治る場合も1年以上かかります。治る確率は1年で60%くらいです。特に足の親指以外は、生え変わるのが遅いので、さらに治りにくいです。最近ではクレナフィンやルコナックという爪白癬に効果のある、外用剤(つめの塗り薬)も使用できるようになりました。ただ、治るのは1年で20%くらいです。感染した爪をできるだけドリルで削ることで、塗り薬の力を最大限に引き出すような取り組みを私はしています。

ところで、外用だけではなんだかわからない皮疹には、KOH検査をせずにステロイドと抗真菌剤を混ぜて塗ればいいじゃん!って思うかもしれません。それは、だめです。難治であった場合にステロイドを強くするのか、抗真菌剤を変えたらいいのか、治療方針がぐちゃぐちゃになってドツボにはまります。

最後に、スポロトリコーシスについてお話します。真皮や皮下組織に真菌が感染することを深在性真菌症といいます。そのなかで頻度が高いのがスポロトリコーシスです。Sporothrix schenckiiの真皮への感染により起こります。暗赤色の結節ができて、未治療では慢性に経過します。生検サンプルの培養により確定します。治療はヨウ化カリウム1g/日を2か月内服とします。