医療機関のためマスク装着で御来院ください。咳や発熱などのある患者さんの来院をお控えいただいております。

第5回 じんましん


蕁麻疹(じんましん)は頻度が高い皮膚疾患です。一般に蕁麻疹は1型アレルギーです。これは、IgE(アイジーイー)という、体のなかで作られる抗体の一種が肥満細胞を刺激してヒスタミンを放出させることで起こります。肥満細胞は皮膚に住んでいて、アレルギーを引き起こす細胞の一種です。ヒスタミンにより血管透過性が亢進して(血管から水分が漏れやすくなって)、血漿成分(血の中の水分)が血管外に漏出し、真皮の浮腫(むくみ)がおこるのです。ヒスタミンは知覚神経を刺激するので、非常にかゆいです。蕁麻疹の症状は蚊に刺されたような皮疹(膨疹)が全身でます。引っかくと膨疹が誘発され、ミミズ腫れのようになります。これを赤色皮膚描記症といいます。膨疹は数時間で引くことが多いです。また、膨疹の形は刻々と変わります。

蕁麻疹の種類は原因によりさまざまです。食物アレルギー、寒冷刺激、温熱刺激、日光刺激、圧迫刺激などによる物理的蕁麻疹、コリン性蕁麻疹などなど。ただ、ざっくり言って原因がわかる蕁麻疹はほとんどありません。一般に、身体的あるいは、精神的ストレスが限度を超えると出ることが多いです。つまり、凄く疲れていたり、風邪を引いたり、季節の変わり目っだったり、寝不足だったり、悩みが多かったりと、そうしたストレスによるものが多いです。

この疾患には抗ヒスタミン薬がよく効きます。アレロックとか、アレジオンとか、アレグラとか、ザイザルなどたくさんありますね。

一方、ステロイド外用をしてもいいですがあまり効きません。最近、ゾレアという注射が開発されました。これは、アレルギーのもととなる、IgEを機能できないようにしてくれます。飲み薬では抑えきれない蕁麻疹に使用します。

発症後6週間を超えてもまだ症状がでている場合は、慢性蕁麻疹と呼ばれます。かなり難治(なおりにくい)です。

アナフィラキシーは蕁麻疹の重症型です。原因は、薬物とくにリドカインなどの局所麻酔、食べ物、蜂毒などによるものが多いですね。血圧は低下し、頻脈、冷や汗がでてショックとなります。こうなったら、クリニックでの対応はできません。救急車を呼ぶか、病院の救急外来に行くしかありません。

直ちに、エピネフリン(アドレナリン)の筋注が必要です。血圧が測れなければ心臓マッサージをしましょう。ルートをとって、抗アレルギー剤の注射をして、生理食塩水の点滴をしましょう。酸素も投与しましょう。モニターをつけましょう。アナフィラキシーを繰り返す方には、エピペンといってエピネフリン注射を処方し、患者さん自身に射ってもらうこともできます。命にかかわりますから。

血圧が安定したら、原因の検索です。本人か家族に聴取です。食べ物が怪しければ、食べ物の抗原特異的なRIST(抗体検査)を出しましょう。リンゴだったらリンゴのRISTです。

後日に患者さんの希望があれば、プリックテストを行うこともあります。プリックテストでアナフィラキシーを再誘発させてしまうことがありますから、リスクの説明は重要です。点滴ルート確保、モニター管理をして、エピネフリンや抗アレルギー薬を用意したうえで行います。入院したほうが管理がしやすいかもしれません。専用のランセット(小さな針)で皮膚を刺し、その上に抗原を含む希釈溶液(例えば疑わしい薬剤を溶かした希釈溶液)をたらします。あるいは、ランセットを食物に刺し、そのランセットを患者さんの皮膚に刺します。

最近、ホットな話題ですが、食物依存運動誘発アナフィラキシーという疾患を知っていますか?小麦を含む食品(パン、うどん、お好み焼き)やエビ・カニなどを食べた後に、運動をしたり、非ステロイド系消炎鎮痛剤(NSAID=エヌセイドと呼びます)を内服したところ、数時間後に蕁麻疹、ひどければショックがおこるという疾患です。小麦場合、その成分である、Ω5グリアジンあるいは高分子量グルテニンに対するアレルギーであることがわかりました。これらは蛋白の一種ですが、ゆっくり胃で消化されれば、抗原性を持ちません。しかし、運動やらNSAID内服やらで胃の運動が活発になり、未消化のままのペプチドが小腸に送られ、血中に取り込まれると、アレルギーを起こすわけです。NSAIDは普通の風邪薬に入っていますから、要注意です。

典型的な例ではこんな感じです。『18歳の男性、ここ数日、すこし風邪を引いていた。昼食でパンを食べ、市販の風邪薬(NSAID含有)を内服した。ちょっと無理をして、午後の体育の授業でサッカーをした。すると、全身に膨疹が出現して、冷や汗が出て、うずくまってしまった。このため、救急搬送された。』といった、場合です。

Ω5グリアジンの血液検査を出しましょう。アナフィラキシーを繰り返す方には、エピペンを処方し、患者さん自身に射ってもらうようにします。後日のプリックテスト(通常は入院の検査)も考慮しましょう。

アレルギーというのも奥深い分野です。巷では、『サーファーには納豆アレルギーが多い。』なんて、都市伝説の如く言われているのを聞いたことがありますか?実はサーファーはクラゲに刺されることが多く、クラゲの成分であるポリグルタミンが皮膚を通じて体に入ります。本来、皮膚は栄養を取り込んだりするところではないので、皮膚に無理やりポリグルタミンが注入されると、それを排除しようとする免疫が働いて、ポリグルタミンに対するアレルギーになってしまうんです。納豆のネバネバ成分はポリグルタミンですので、納豆を食べるとアレルギーの症状が出てしまうようになってしまいます。

それから、『マダニに刺されると、牛肉アレルギーになることがある。』ということも言われています。マダニは刺すときに、自分の唾液を人の皮膚に注入します。唾液中にはα-galという物質が含まれています。先ほどと同じように、マダニに刺されると、α-galに対するアレルギーになってしまいます。α-galは実は、牛肉にも含まれております。このため、マダニに刺されると、牛肉アレルギーになってしまうことがあるというわけです。

血管浮腫は、蕁麻疹の特殊型です。真皮から皮下脂肪組織(脂肪組織)の血管透過性の亢進が起こります。蕁麻疹より深い場所ですね。このため膨疹というより浮腫が起こります。口唇や眼瞼周囲に好発しますね。蕁麻疹と異なり、あまりかゆくありません。浮腫の持続は数日継続します。遺伝性のものもあり、その場合は、C1インアクチベーター遺伝子の異常で起こります。