第２回 アトピー性皮膚炎って何？

一般の人でもアトピーという名前を知らない人はいないんじゃないでしょうか。でも、一体、アトピー性皮膚炎って何なの？皮膚科ガイドラインがありますが、ちょっと敷居が高いと思いますので要約します。

20字以内で言うなら、『かゆみの強い湿疹を慢性的に繰り返す病気』です。これなら覚えられますよね。慢性的にと言いましたが、期間は乳児で2か月、それ以上で6か月です。分布は大体対称的です。乳児期に顔から始まって幼児期に首、四肢の関節の屈側に拡大し、思春期に上半身が主体になります。

名前の付いた症状が結構あります。残念ながらこれは暗記が必要です。Dennie-Morgan徴候は下眼瞼のしわです。Hertoghe徴候は掻破のために眉毛の外側1/3が疎になってしまうことです。

それからアトピー素因を伴うことが多いです。アトピー素因というのは気管支喘息とか、アレルギー性鼻炎とかアトピー性皮膚炎とかの既往歴や家族歴があったり、血中IgEが高かったりすることです。

完全な遺伝ではないんですが､血のつながった家族にアトピーの方がいる場合は､アトピーになりやすいということです｡

小児のアトピー性皮膚炎の鑑別(症状が似ているので注意しなければならない疾患)で重要なのは、白癬（みずむし･たむし）と伝染性膿痂疹（とびひ）です。両方ともジュクジュクしていて落屑（カサカサ）がありますからね。

成人のアトピー性皮膚炎の鑑別で、最も重要なのは菌状息肉症などの皮膚T細胞リンパ腫の否定です。このために、アトピー性皮膚炎を疑っても皮膚生検（皮膚の一部を麻酔して切除し､病理検査を行うこと）をすることがあります。

合併症ですが、伝染性膿痂疹、カポジ水痘様発疹症などの感染症は重要です。また、感染症ではないですが、白内障はアトピーの合併症で重要です。顔の症状が強い場合には、顔を引っかいたりするので、物理的なダメージにより白内障になってしまうんです。眼科にコンサルトすることもあります。

アトピーの今、ホットな話題はフィラグリンです。フィラグリンはタンパク質です｡また､天然保湿因子であり、保湿やpHを酸性に保つ働きがあります。フィラグリンがやられると、バリア機能が低下して、外部からの刺激に敏感になってしまうわけです。アトピーの一部では、この大事なフィラグリンの遺伝子変異が見られます。そう、アトピーの一部は遺伝疾患だったんです！ちなみにフィラグリン遺伝子の変異は尋常性魚鱗癬をも起こします。

アトピーの重症度評価は最近ではEczema Area and Severity Index (EASI）(最高点数72 点)が使用されることが多く､16以上で重症です｡これはクリニックの日常診療で､全部の患者に行うのは難しいです｡基本的に､デュピクセントなどの重症例への強力な治療をする場合の指標として使います｡

血液検査は血清IgE 値、血清TARC 値、末梢血好酸球数を行います。しかし、最も重症度に比例するは、血清TARC値（タルク）です。

保湿剤は治療の『基本のキ』です。保湿剤を全身に塗ったうえで、症状のある部分にステロイド外用です。顔にはミディアムクラスのステロイド外用（ロコイド、キンダベート、リドメックスなど）、体にはベリーストロングクラス（アンテベート、マイザー、ネリゾナなど）から初めて、よくなればランクダウンしてゆきます。塗る回数はだいたい、1日2回です。塗る量の指導はfinger-tip-unit (FTU)で行います。ひとさし指の先端から第1関節部まで口径5 mm のチューブから押し出された量が､1FTUです｡手のひらで2枚分塗れるというように指導します。

プロトピック軟膏は、免疫抑制剤のタクロリムスが入っています。顔の症状に適応があります。プロトピック軟膏はピリピリとした刺激感があります｡しかし､ステロイドを顔に塗ったときに起きやすい酒さ様皮膚炎を起こしにくいという利点があります。小児にも2歳以上なら使用できます。シクロスポリンの内服は重症のアトピー性皮膚炎に使用しますが、腎障害がないか定期的に検査が必要です。そのほか、ナローバンドUVB 療法は311nmの波長を照射するものがあり、週に1回ほどの照射でも効果があります。

『湿疹を起こす原因となるIL-4やIL-13というサイトカイン（炎症を起こす物質）を直接なくしてしまおう！』というｺﾝｾﾌﾟﾄのもとに開発されたのがデュピクセント注射です｡これはIL-4やIL-13に対する抗体で､IL-4やIL-13にくっつくことで､これらを無効化することができます｡2週間に1回の注射で非常によく効きます｡しかし､顔の症状には効果はイマイチな傾向があるようです｡副作用は結膜炎を起こすことがあります｡